物質中でのイオンの伝導は、移動度と伝導イオン(と空孔)濃度によって決定する。特に後者については分子論・ミクロ的な議論のみならず、統計論・マクロ的な考察が必要である。
イオン伝導に対する浸透理論の適用は、マクロ的な考察の一例である。
(上図) ダイアモンド格子中のクラスター形成のシミュレーション結果。
・伝導経路中での伝導種濃度を60%に設定した例。
・青は伝導経路中に存在する障害物、赤:伝導に寄与できる経路、黄:孤絶された経路クラスター
浸透とは,対象とする格子中のサイトが系内 でどのように繋がっているか,その特徴が系の性質にどう反映しているかを対象とする理論である。あるサイトが繋がって出来た集団は,クラスタ ーと呼ばれる。浸透導電理論による と,導電体が特定濃度(閾値)以上で凝集し,系全体を連なる(≒サイズ無限大の)クラスターが形成されて導電性が発現する。サイズ無限大のクラ
スターが存在するためには,その物質の比率(濃度)p がある閾値pc以上大きいことが必要である。 この閾値pcは格子の幾何学的特性により一義的に決定され臨界浸透濃度,あるいは浸透閾値と言う 。
以上が概念的な説明。もう少し、具体的な例で説明を以下に与えよう。
正方格子(下図のような正方形状に伝導パスが繋がった格子)におけるイオン伝導を考える。赤い丸と白い丸はイオン伝導種であり、経路上をところどころイオン伝導できない障害物が埋めているとする。障害物の格子に占める割合が大きくなると、障害物に囲まれ動けなくなる伝導種が出てくる。図中の白い丸のイオンは、赤い丸のイオンと全く同じイオンであるが、障害物に阻まれてイオン伝導できなくなっていることが、図からみて取れよう。
単純なイオン伝導種の濃度は、赤と白のイオンの総和となるが、実際に伝導に寄与できるイオン種の濃度はどのように変化するのか?これをプロットしたのが下の右の図である。正方格子の場合、障害物濃度が約40%を越えた時点で、一気に実際に伝導できるイオン種の濃度が急激に減少して絶縁体になることが分る(赤い点)。この値は、格子の幾何学的性質のみよって一義的に決まる値であり、浸透閾値(パーコレーションリミット)と呼ぶ。
グラフから分るように、材料の特性は浸透閾値付近でドラスティックに変化するため、材料設計上重要なパラメータであるし、また逆に浸透閾値を調べることによって、伝導経路が正方格子であることを確かめることもできる。
浸透理論はイオン伝導の問題に限らず、磁性・誘電性といった材料特性から、森林火災など広範な問題に適用される数学的問題である。
スタウファーを読みましょう。この教科書が一番の良書だと思う。ちなみに日本語で読める。
[1] 浸透理論の基礎,Stauffer 著,吉岡書店
リチウムイオン伝導についてこの問題を適用したのは、Inagumaらのペロブスカイトの研究が有名。
[2] Y. Inaguma and M. Itoh, Solid State Ionics, 86-88, 257, (1996).